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第5章 　甘やかな願い

その漂う緊張感に耐え切れず、先に口を開いたのは俺だった。


「……透子ちゃんが俺を好きな理由が全くわからない」


あんな扱いをされて、それでも俺が好きだと言う彼女。
こんなひどい言葉をぶつけられても、俺を求めようとしてくるその気持ちがわからない。


ふつう、嫌いにならないか？
もうこんな男なんてどうでもよくならないか──？


俺が何をしても、それを受け入れて。
拒むこともせず、従って。


「ただ10年前を引きずってるだけじゃないの？」


そんなことない……と微かながらもはっきりと聞こえた声に


「じゃあ何？
こんな俺のいったいどこを好きなの？」


俺もはっきりと言葉にした。
そして静かに顔を向ければ、ずっと俺を見ていたのであろう彼女と視線が絡み合う。


「俺の何を知ってそんなふうに思うの？」


……口にして、何も知るわけなんかないよなと、自分で思っていた。
だって俺は、この数か月、彼女と身体でしか繋がっていない。
あからさまな態度。
優しさや配慮など欠片もない言葉。
それを思えば、彼女が俺の何を好きだというのか、本当にわからない。