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最後の一色
第14章 19日目の雨は・・

「手だけじゃなく・・体中の肌を擦ってくれたらもっと・・温かくなるわ・・」

自分から、柵を乗り越えようとしたのだろうか。
本音がつまづくことなく口をついて出た。
言葉の意味すること、その先にどんな感情があるか、
すべてを承知してのことだった。

だが涼輔は、手を擦ったままにっこりとほほ笑むだけで終わった。

「手が温まれば十分体も温まる。
 前にね、公園で気功をやっているお年寄りたちに誘われてね、
 その場で少し教わったんだ。手のひらを温めるところから始まる。
 その温かい手のひらで腕やお腹や足を温めていくんだ。
 でもそれは自身の熱で温まる。あなた自身のね」

包んでいた手を開き、女の手をポンポンと叩くとキャンバスの前へと戻っていった。

「じゃあ、ポーズを戻して」

筆を握ると画家は、濁りのない目で裸の女に視線を這わせる。

美紗緒は心の中で大きなため息をついた。

ますます・・
この男に心を奪われていく自分を、抑えることはできない、と
目を伏せた。



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