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最後の一色
第3章 冷たい夫

自宅の広々としたキッチンで夕食の支度に取り掛かったのは
8時近くだった。

だが夫の康文は9時近くにならないといつも帰宅しないので、
美紗緒はゆっくりと支度に取り掛かった。

包丁の音は弾むように聞こえる。
きっと気持ちが軽くなったからだ、と刻まれる野菜を見つめながら口角をあげた。



すっかり料理は出来上がり、あとは夫の帰りを待つだけとなったのだが、
康文は10時をまわっても帰ってこない。
何の連絡もないし、なにかあったのだろうかと心がそわそわしだした頃、
外で車のエンジン音が聞こえた。
康文が帰ってきたようだ。

玄関のドアがあく音が聞こえ、美紗緒が迎えに出ると、
少し驚いた顔で康文が動きを止めた。

「なんだ、おまえ、帰っていたのか」

今、ここに妻がいることが意外だったと言いたげなその眼差し、その口調。

一気に美紗緒の気持ちは沈んだ。
自分を遠ざけるようなその態度に、再びため息が口をついて出そうになった。
だがしっかりと顔をあげ夫を迎える。



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