この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
最後の一色
第3章 冷たい夫
自宅の広々としたキッチンで夕食の支度に取り掛かったのは
8時近くだった。
だが夫の康文は9時近くにならないといつも帰宅しないので、
美紗緒はゆっくりと支度に取り掛かった。
包丁の音は弾むように聞こえる。
きっと気持ちが軽くなったからだ、と刻まれる野菜を見つめながら口角をあげた。
すっかり料理は出来上がり、あとは夫の帰りを待つだけとなったのだが、
康文は10時をまわっても帰ってこない。
何の連絡もないし、なにかあったのだろうかと心がそわそわしだした頃、
外で車のエンジン音が聞こえた。
康文が帰ってきたようだ。
玄関のドアがあく音が聞こえ、美紗緒が迎えに出ると、
少し驚いた顔で康文が動きを止めた。
「なんだ、おまえ、帰っていたのか」
今、ここに妻がいることが意外だったと言いたげなその眼差し、その口調。
一気に美紗緒の気持ちは沈んだ。
自分を遠ざけるようなその態度に、再びため息が口をついて出そうになった。
だがしっかりと顔をあげ夫を迎える。