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最後の一色
第4章 初日

勤務開始の日、田原涼輔はアトリエのある豪徳寺駅まで迎えに来てくれた。

午後1時をまわった駅には人もまばらで、改札の向こうを難なく見通せた。
そこに彼の姿を見つけた。

改札の向こうから手を振る涼輔に、美紗緒はいったんは手を振ったものの、
急に恥ずかしくなって小さなお辞儀を何度も繰り返した。

「こんにちは。今日からよろしくお願いしますね。
 じゃあ・・行きましょう」

簡単な挨拶をした涼輔も、美紗緒を目の前にするとなんとなく体を硬くし、
笑顔までもぎこちなくなった。


男の後をついて静かな住宅街を歩く。
緑が色濃く茂るこの辺りは、まさにアトリエが似合う。
10分ほど歩くと前置きされたが、
見知らぬ土地の、訪れたことのない場所までの道のりはやけに長く感じられる。
細い道の両脇に並ぶ住宅に目をやり、
時々空を見上げ、
それを何度も繰り返した。



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