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最後の一色
第4章 初日


10年近く前の出来事を思い起こし目じりに涙を溜めていた美紗緒は、
食器を片づけながら、久しぶりにバーボンの瓶に手を伸ばした。
康文が使っていたグラスに琥珀の液体を注ぐと、少しづつ口に含んだ。

しばらく飲んでいなかったアルコールに心も体も浸せば、
嫌な事はしばし忘れられる・・
広いだけでなんの温かみも感じないリビングで一人、
ソファに体を沈み込めるとグラスを掲げて琥珀の液体の動きを眺めた。

竜が体をうねらせる様な、液体の動き。
目で追いながら、その細いスクリーンに涼輔の顔を映し出した。


穏やかさがにじみ出ている面差し。
物静かな動き。
そして・・
何も隠していないありのままの姿を見つめる眼差し・・

性格や素性や、その生活などなにもわからないけど、
男、を意識してしまったことに美紗緒はすでに気づいていた。
その気持ちの大きさがどの程度のものなのか、いや、
まだ形さえ成していないのかもしれないが、心の底から沸騰してくるなにか、を
感じ取っていた。

・・田原・・涼輔・・・

私のすべてを目にした・・男・・

見つめていた琥珀の液体を一気にのどに流し込む。
焼けるような熱さは、すぐに体中を熱らせた。





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