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最後の一色
第6章 5日目
5日もすると、まるで自分の実家にでも帰ったかのように、
美紗緒は軽やかに田原家のドアをあけた。
「こんにちは!今日はお菓子を焼いてきたの。終わったら味見してくださいな」
「うわぁそりゃ嬉しいな。
手作りのお菓子なんて味わったことないからなぁ」
仕事にきてくれたモデル、という域をすっかり超えて
親しい友人が遠慮なく家に上がりこんでくる、そんな感覚に包まれた。
「え~?手作りのお菓子食べたことないなんて・・
恋人は作ってくださらなかったの?」
かわす会話も遠慮が薄くなった。
彼の過去など何も知らないのに、恋人がいた、と勝手に決めつけて。
よくよく考えれば失礼な発言かもしれないが、
それだけうちとけて心をさらけ出せる相手だと位置づけられたのだ。
美紗緒は待った。
涼輔の口から過去が語られることを。
この男はどんな恋愛をこれまでの人生の中で経験してきたのか、
知ってみたいと思った。