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最後の一色
第1章 ため息の中で
「アトリエ・・あの、画家さんなんですか?」
画家、とすぐにピンときた美紗緒に、男は興味の色をさらに濃くした。
「ええ、画家なんですが・・あなた、よくわかりましたね。
アトリエと言ったって画家ばかりとは限らないのに」
「・・はい、実は子供の頃、近所の絵画教室に通っていて。
年配の女性でしたがご自分のアトリエで子供たちに絵を教えていて。
だからアトリエと聞くとまず最初に画家さんを思い浮かべるんです」
その時の女の表情を見て男は、ホッと息を吐いた。
さっきまでは警戒の色に染まっていたその顔が、本来の美しさを
取り戻していることに安堵したからだ。
「あの・・その様子だと僕の話を聞いていただけそうですね。
是非、聞いてください。
ここではなんですから、お茶でも飲みながら」
左手を指し伸ばし、行く方向を示す。
夕暮れにむかって流れる時間。
灯りがぽつぽつともりはじめた通りを
出会ったばかりの男の後について美紗緒は歩き出す。
不安の色は相変わらず消えないが、今はこの男を信じてみようと、
ためらうことなく歩調を合わせた。