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シリウスの小説執筆方法論
第6章 『よこはま・たそがれ方式』で官能小説を書いてみる
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くちづけ
残り香
煙草のけむり


「くちづけ」で、ふたりの関係性が、ずばり解ります。
そして、これがわかって、はじめてその前の「ホテルの小部屋」が、普通のホテルではないことが判明するのです。

「残り香」は男の残り香、そして「残り」というくらいですから、すでに男はこの部屋にいないことを示しています。

「くちづけ」の時はいたのに「残り香」になってしまったので、これは、男がキスをして部屋を出て行った瞬間を切り取った場面ということがわかります。
この二つの単語だけで「男の動作」と「時間の経過」がわかるのです。
実に巧妙です。

そして極め付けは「煙草のけむり」。
これは「残り香」がまずあって、それに被せるように「煙草のけむり」ですから、残り香と煙草のけむりは同時には嗅げません。
ですから「残り香」を「煙草のけむり」が消していくさまを表現したのでしょう。

これも「男の動作」と「時間の経過」を示しています。
「男が、女にキスをして部屋を出ていく間際に点けた煙草のけむりが、男の残り香を消していく」そんな情景です。

たった3単語で、これだけのことを思い浮かばせます。
ではなぜ「名詞」だけで「動作」と「時間の経過」がわかるのでしょうか?

それはその「名詞」が「動作の結果」によって生まれたものを表しているからです。
「残り香」は、男が出て行った結果によって生まれたもので「煙草のけむり」はもちろん男が煙草に火を点けた結果によって生まれたものです。

動作そのものをストレートに表すのではなく、動作の結果によって生まれた事象を提示することによって、その動作が行われたことを表現するテクニックです。
これは、そのものを直に説明するよりも、イメージを膨らませ、余韻を残させる効果があります。
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