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タンバリンでできたオーロラ
第27章 ヌーディスト課長
「部下君……この書類のここの数字なんだけど……」
通りの良い、少し低い声。
大人の女って感じのセクシー艶々な周波数のやつ。
俺よりふたつかみっつ下なんだけど、女ってアラサーぐらいが一番魅力的なんだよな。あ、アラサーってもう死語か。
まあとにかく、彼女の声はセイレーンだ。
俺は魂を奪われるとわかっていても近づく船乗りだ。
あ、申し遅れましたが「部下」というのは俺の立場のことじゃない。いや、この場合、立場でもあるのだが、それ以前に苗字だ。
「つかさげ」と読む。難読苗字のひとつだ。
どんだけ出世しても「部下」。社長になっても「部下」。
上昇志向のある奴にはげんなりくるような名前だか、まあ名前を憶えて貰うには便利。営業職としてはけっこう重宝な苗字だ。
ちなみに下の名前は「かずお」と読んで「一生」と書く。
フザケンなよ、親父!
でもまあ、俺はおおらかなので、親を恨みなどしていない。
というか、おおらかな性格にならざるを得ない名前だ。
まあ、同年代の奴らに少なからずいたいわゆるピカピカネームよりはマシだ。
「なんでしょうか楚亜羅課長……」
「下の名前で呼ぶのはやめてって言ってるでしょう」
そう。彼女よりはマシ。
初級のピカピカネームだから読めると思うけど、「そあら」ね、一応。
彼女、ヌーディだけど、仕事は超できる。
頭の回転も速いし、肝も据わっていて物に動じない。ま、動じるようではヌーディなんてやってらんないだろうけど。
年下なのにすべてにおいて俺を上回っているが、この名前のおかげで俺はささやかながら優越感を保てるってわけだ。
サモシイオトコ、なんて思わないでくれよ、ホントそうなんだから……。