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今宵ワタシの胸の中で
第3章 始発に乗った夜に
電車を降りると、後ろに駅員さんが立っていて、いきなり私の腕を掴んで歩き出した。

何?ナニ?なに?

驚いて声が出ない。それに触れられた腕が熱くてドキドキする…こんなドキドキ久しぶり…

「あ、あの!」

無言のまま、私を駅の外まで引っ張って歩いて行く。この人、この駅のことよく知ってる。

駅を出て、駅前の商店街の路地に入る…

恐いけど…この胸の熱さに触れていたい。この胸のドキドキのままでいたい。

薄暗い路地…壁に体を押しつけられて身動きできない。なんでそんなに切ない眼で私を見るの?

その眼に吸い込まれるように、私も見つめ返す。

きっと私と同じくらいの歳かな?顔は優しい笑顔の人。今朝はしていなかった眼鏡をかけている。職業は駅員さん…

こんな状況でそんなことを思った自分が可笑しくて、ちょっと笑みが出る。

「余裕だね。」

「ん?なんかこのドキドキがいいなって思ってた。」

私の言葉を聞いて、屈託のない笑顔の駅員さん。

「キスしていい?」

私から腕を首に廻して、キスをしようと顔を近づける。

「もちろん。」

お互いの唇が触れるだけのキス。啄むようにキスをして、時より唇を舐める。

「……もっと。」

更に深いキスを求めて、自分から出た言葉が信じられなかった。この状況も信じられない。

酔ってもいないのに、路地裏で数回言葉を交わした人とキスをしてる。

「そんなに煽らなくても、もう離さないよ…」

そう言って、キスをやめて歩き出す。

「どこに行くの?」

「僕の家においで。」

「行ってどうするの?」

そんなのわかってる…きっと私はこの人と体を重ねる。

知らない人なのに…でも、それでいいの。私はこの笑顔の人と一緒にいたい。

「話してもいい。お酒を飲んでもいい。またキスをしてもいい。もちろんセックスしてもいいよ。」

「じゃあ、セックスしよ?」

私の言葉にちょっと驚いた顔をして、すぐに妖艶な笑顔に変わる。

「仰せのままに…」

お互い名前も知らない…けど、今はそれでもいい。
そんな今宵…
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