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らぶあど encore!
第9章 ライヴ=人生?④
カーテンを掴み、倒れそうな身体を何とか支える。
指も、唇も小さくわなないていた。
「もうっ……!」
腹立たしげに、景子は手応えの無い布を拳で殴り当たり散らす様に小さく叫んだ。
「あんたなんかに……
構ってる暇は無いのよ……私は、私は……っ」
握った拳から力が抜けて、景子はカーテンにしがみついたまま膝を床に落とした。
「どうせ……
あんなの……色んな女に言ってるに決まってるし……
誰が……そんなの本気にするのよ……馬鹿じゃないの?」
そう言いながら、今まで亮介が自分に向けてくれた優しさを思い出す。
ホテルで虫を怖がって呼び出した時、ずっと側に居てくれた亮介。
あの静かな優しい瞳が側にあると、包まれた様に安心できた――
「……ダメよ……何を考えてるのよ……っ」
自分には目的がある。
それを果す為にクレッシェンドに潜り込んだのだ。
決して心を許すつもりなど無かったのに――
呆然と座り込む景子の耳には、調子っぱずれな亮介の歌声が届いていた。
「……何よ……
本当に、下手くそ……」
景子はクスリと笑うが、その口元に溢れた涙が入り込む。
甘くて苦い、複雑な味がした。