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らぶあど encore!
第19章 心~crossroads
重い、しかし心地好い眠りから景子を引き上げたのは、頬に触れる冷たい感触だった。
重く、またくっついてしまいそうな瞼を無理矢理開くと、亮介の笑顔が目の前にあった。
「……着いたけど……」
「え……」
景子は、ようやく自分がカフェで野村やあぐりと別れ、亮介とタクシーに乗っていた事を思い出した。
亮介のマンションの前にタクシーはハザードランプを点けて停まっていた。
亮介は、景子の髪に触れると優しく言う。
「……今夜も泊まって行きなよ」
亮介は、カフェで泣き出した景子を抱き締めたまま何も聞こうとはしなかった。
多分、亮介の中は疑問が渦巻いている事だろう。
けれど、無理につついたりする真似を亮介はしなかった。
ただ、泣きじゃくる景子の側について、一緒に居た。
そんな振る舞いが出来るのは、本当に優しい人間だけだという事を景子も知っている。
(――優しい……
何故、この人はこんなに優しいの?
私は、今までこんな優しさに触れた事がない……)
景子は、蔦に絡め取られる様に、亮介に捕まってしまう寸前だったが、そんな自分に戸惑ってもいて、素直になれずに居た。
何も言わない景子に、亮介は溜め息を吐いて、彼女の髪をクシャクシャと乱し、額に口付けた。
「ちょっと……!」
赤くなり抗議する景子に笑うと、運転手に一万円札を渡し、
「彼女をお願いします」
と言い、タクシーから降りる。
「……亮介君」
窓から景子を覗き込み、亮介は指で軽く叩いてウインクする。
景子が何か言いかける様に口を開いた時、タクシーは走り去った。