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らぶあど encore!
第19章 心~crossroads



タクシーが見えなくなってしまうと、亮介はふう、とまた溜め息を吐いて頭を掻き、エントランスへ昇りエレベーターに乗り、階が上昇していくのを知らせるランプをぼんやりと見詰めた。


初対面の時の強気な景子の表情、名古屋ライヴて自分に渇を入れた景子、パーティでカナとあぐりに啖呵を切る強気な景子、病院で小さな洋平に向けた優しく柔らかい眼差し――



色んな表情の景子が胸の中を現れては消え、また現れ、亮介は天井を仰ぎ目を瞑り首を振る。



タクシーの中、眠る景子の小さな寝息と、亮介にもたれ掛かるその身体から香る甘さが堪らなく愛しくて、帰したくない、と強く思った。


だが、まだ急いではいけないと亮介は自分にブレーキを無理矢理掛けた。


"泊まっていく?"
と言った亮介だが、口をつぐんだ景子にそれ以上踏み込む事が出来なかった。



不意に、パーティドレスを纏って嬉しそうに頬を染めた彼女の姿が蘇り、亮介の胸が鳴った。



あの無邪気な笑みを浮かべた瞬間の景子が、本当の彼女なのではないだろうか。



あの笑顔を、また見たい――
出来れば、自分の隣で、この腕の中で――




「あ――っ!もう!」



亮介は突然叫ぶと、エレベーターの下降ボタンを押し、スマホを出して景子の番号を押したが、何回かの呼び出し音のあと、留守番メッセージに切り替わる。



「はあ……」


亮介は、再び階下へ到着したエレベーターの中でスマホを胸に、壁に凭れた。



去り際に、心細そうにタクシーの後部席から亮介を見詰める眼差しが過り、胸が痛んだ。


(――俺はバカだ……
物分かりの良い男の振りをしたって何も変わらない……
強引にでも、引き摺ってでも連れてくれば良かったんだ……!)



エレベーターの到着を告げるチャイムが、虚しく辺りに響いていた。

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