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らぶあど encore!
第24章 長い夜
ライヴハウスは古くて天井も低く、空調施設も整っているとは言えず、ぎっしりと客が埋まったら恐らく人の熱気で壁や床が湿り、しまいには天井から水滴が降ってくるだろう。
客は満杯ではなく、キャパの半分程だったが、皆ステージを真っ直ぐに見て、彼等に夢中なのがうかがえた。
(――クレッシェンドの、デビュー前を思い出すな……)
クレッシェンドもデビューする前は、ここよりももっと小さい箱でライヴをやったものだ。
綾波は後ろの壁に凭れ、ステージ中央でエレキを派手に鳴らしながら英語の歌詞で歌うボーカルを見据える。
確かに、美形だ。くっきりとした目鼻立ち、優美さとミステリアスさを併せ持つ歌声に悪魔的とも言える彼の鋭く色気のある眼差し、そして、他のメンバーの個性も際立っている。
ベースの男はルックスも技術も素晴らしく、彼目当てのファンもついているらしく、女性達が両手を彼に向かって「かずくーん!」と叫んでいる。
ドラムスの眼鏡の男は寡黙な印象だが、プレイは情熱的だ。
ドラムスはバンドの要と言ってもいい。ドラムがしっかりしているバンドは演奏も歌も安定するし、楽曲にも厚みが出る。
彼は綾波が今まで見た中で恐らくは五本の指に入る程の凄腕のドラマーだ。