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新月
第4章 夢の出来事



暗い暗い、夜の闇———。


空には、星もなく、ぼってりとした満月が、チヨを照らしていた。


(ここはどこ?)


ぐるりと周りを見渡そうとしても、体が動かない。




何の音もしない———。



チヨは、一つだけある月を、食い入るように見つめるしかなかった。


とろりとろり………。

闇が少しずつ、月を蝕んでいく……。




(いやだ!いやだ!!いやだ!!!


私から、もう、何も奪わないでっ!!)



しかし、声は出ず、体も動かない——。


(誰か!
誰かっ!!

助けて!……何もなくなってしまうっ!!)

チヨの悲痛な叫びは、自分の心を引き裂くようだ。



無情にも闇は、線のように細くなった月を呑み込んでしまい、


暗闇にチヨが一人になった———。








(あぁ…何もないわ……何も…何も……)



チヨの心の中までも、暗い闇が覆い尽くす………。





フワリ



どこからともなく、


藤の花の香りが、チヨに届く。



(いい香り。

どこかで嗅いだ香りだ。


どこだったろう??)



しばらくすると、チヨのまわりは藤の香りで満たされていた。


(はぁ。落ち着く…。)


先ほどまでの、恐ろしい感覚はなくなり、


(これは夢なのだわ。)

(藤の香り…。美月様……?)



不思議な感覚でいると、遠くの方から、物音が聞こえてくる。


コトコト、……ゴト


「………。 …………っ。」


音は段々、近づいてくるような、

もしくはチヨが、身を乗り出して聞いているような錯覚を覚える。


(何の音??


……美月様かしら??


フフ……夢の中まで美月様が出てくるなんて)




チヨの心は軽くなったようだ——。



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