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新月
第5章 透吾
—透吾は、昔からあまり子供っぽくない子供だった——。
藤木の妻が、透吾を産んですぐ亡くなってしまったため、甘える相手がいなかったからかもしれない。
透吾は、父親の言うことをよく聞き、周りにも迷惑をかけてはいなかった。
まだ、チヨが小さい時、透吾とよく遊んでいたが、よくよく思い出してみると、
透吾がチヨのお世話をしている感じだった。
『あぁ〜ん、うわぁぁ〜ん!!』
『チヨ、どうしたの?』
グスグス
顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
『あ、あっちに、ね、トンボがいたの!!
つ、つかまえようとしたら、こけたのぉ〜〜!!』
『いたいよ〜!
とうごちゃん、いたいよ〜!』
『わかった、わかったから。
ほら、井戸へあらいにいこう』
(…その頃は、また、言葉使いもよくわかっていなくて、
とうごちゃん、と呼んでいた。)
毎日とは言わないが、会った日は必ず二人で、日が暮れるまで一緒にいた。
チヨが透吾の後ろをくっついているのか、
透吾がチヨの周りをウロウロしているのか、
二人は、意識せず、共にいた。
———少なくとも、チヨはそうだった。
余りに、透吾に世話を焼いてもらっているチヨを見て、
テルが
『チヨ、透吾様は御屋敷のお子様ですからね。
お呼びする時は、とうごさま、か、お坊ちゃん、と、
呼びましょうね。』
『?、はい。 かかさま。』
あまり疑問にも思わず、チヨは返事した。
そして、いざ、透吾を目の前にして、
『とうごさま』
と、呼んだ時、透吾の動きが止まった。