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新月
第8章 悍ましい
———とうごちゃん………
チヨは、ゆっくりと夢から目覚めた。
夢の中、いや昔の透吾は、チヨにとても優しく接してくれていた。
同い年だが、兄のような存在…。
(……もう、あの頃のようには戻れない……)
母親の夢とは違うが、今宵の夢も、
何とも言いようのない心許無さに、襲われる。
水でも飲もうと、布団から出る。
今はもう、深夜だ。
今晩は月も出ていない。
(曇っているのかしら?
それとも新月?)
机の上にあった茶器から、水を飲もうとした———
……トン———。
襖の閉じる音がした。
(え?)
チヨは、自分の部屋の入り口を見る。
自分の部屋の襖は閉まったままだ。
(…隣の部屋?
美月様かしら?)
こんな夜中に、美月が起きているとは知らなかった。
(何か、お手伝いしたほうがいいのかしら?)
そう思い、自分の部屋の襖を開けようとしたが、ピタっと、動きを止めた。
(……そういえば、以前、夜中に起きて、
…聞いてしまったのだわ……)
———そう、美月の悩ましい声を——。
チヨは、心臓が早鐘を打つのを感じた。