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【短編集】real
第1章 拓人
僕がああしよう、こうしようと思うまでもなく、僕の指先は焦らされ続けていたかのように夏希の体をまさぐる。
夏希はそれに応えるように苦悶の表情を見せる。
どうしていいかわからずに僕の意識が指先に伝わろうとすると、彼女は僕を止めるのだ。


動物的に、本能のままにと言ったらかっこいいかもしれないけど。
まるで自由のきかなくなった僕の体は、ただただ夏希を追いかける。
僕の感情が追いついた頃には夏希はまた違う反応を見せる。


その繰り返しで。


でも、それが終わったとき。
息を切らしながら夏希は僕の頬をそっと包んだ。



「そう、その顔が見たかったの」



言われて正面の鏡になった壁を見ると、そこにはなんともいえない表情の僕がいた。

ああ、これが。
生まれて初めての感情、僕はすっかり溺れていた。


最初で、最後。
僕が初めて感情というものに振り回されて。
もう二度と、感情が動くことはないのだろう。
そう思いながら体を重ねた。


でも幾年かすれば、また同じようになるのだろうか。
感情に任せて、欲情したり、硬直したりするのだろうか。

それとも、夏希こそが最初で最後。
僕を動かすことのできる、たった一人の人間?


僕は、そうであればいいと思う。
もう二度と、振り回されたくはないのだ。

でも、なんでかな。
あの誰にも言えない、表現できない時間を恋しく思うのは。

また、僕が夏希を求めているからなのかもしれない。



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