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【短編集】real
第1章 拓人
僕は少し変わっているらしい。
そう気がついたのは、いつだっただろうか。
テレビを見ると、お笑い芸人がくだらないことをしては周りの人間は大きく口を開けて笑い声をあげる。
僕にはそれが不思議でならない。
物心ついた頃から、そういった笑い方をしたことがないのだ。
もしかしたら咀嚼する、会話をする。
それ以外に必要な筋肉が僕にはついていないのかもしれない。
そう思わせるほどに、僕には感情の起伏というものが欠落しているのだ。
とは言っても陽気な祖母のおかげで世の中を渡り歩く最低限の嗜みはある。
皆が楽しそうにしている時には目尻を下げるように目を細め、口角をあげる。
そうすれば大笑いとまではいかなくても、その場を楽しんで微笑んでいるようには見えるのだ。
逆に集団の誰かが怒りを共有しようとする時には。
目に力を込めて口を真一文字に結ぶ。
そうすればその顔は憤っているようにも見えるし、何かに耐えているかのように見せてくれる。
難しいのは悲しみの表情だ。
これはなかなか僕の思うような表情を見せてくれない。
そんな時には、僕は顔のパーツたちへの命令を止める。
そうすれば、怒りも楽しみも忘れた、何も語らない顔が出来上がるのだ。
間違えてはいけない。
顔の力を抜いてしまってはただのアホの顔だ。
表情を作らないようにする。
これを習得するのには、僕にはかなりの時間がかかった。
そうは言ってもその表情を披露するような場面には、なかなか訪れそうにもないのだけど。
そんな僕にとって、唯一何も考えずにいられたのが弘樹だった。
けれども弘樹は最近、大学生の彼女ができたらしい。
よくある、子供のように無邪気な彼に、その年上の女性は母性本能でもくすぐられたのだろうか。
終始にやついた彼の顔は僕には新鮮だ。
また、学ぶべきものが増えたのだから。
まぁ、やっぱり僕にはそんな表情を作る機会はありえないのだけれど。
そう気がついたのは、いつだっただろうか。
テレビを見ると、お笑い芸人がくだらないことをしては周りの人間は大きく口を開けて笑い声をあげる。
僕にはそれが不思議でならない。
物心ついた頃から、そういった笑い方をしたことがないのだ。
もしかしたら咀嚼する、会話をする。
それ以外に必要な筋肉が僕にはついていないのかもしれない。
そう思わせるほどに、僕には感情の起伏というものが欠落しているのだ。
とは言っても陽気な祖母のおかげで世の中を渡り歩く最低限の嗜みはある。
皆が楽しそうにしている時には目尻を下げるように目を細め、口角をあげる。
そうすれば大笑いとまではいかなくても、その場を楽しんで微笑んでいるようには見えるのだ。
逆に集団の誰かが怒りを共有しようとする時には。
目に力を込めて口を真一文字に結ぶ。
そうすればその顔は憤っているようにも見えるし、何かに耐えているかのように見せてくれる。
難しいのは悲しみの表情だ。
これはなかなか僕の思うような表情を見せてくれない。
そんな時には、僕は顔のパーツたちへの命令を止める。
そうすれば、怒りも楽しみも忘れた、何も語らない顔が出来上がるのだ。
間違えてはいけない。
顔の力を抜いてしまってはただのアホの顔だ。
表情を作らないようにする。
これを習得するのには、僕にはかなりの時間がかかった。
そうは言ってもその表情を披露するような場面には、なかなか訪れそうにもないのだけど。
そんな僕にとって、唯一何も考えずにいられたのが弘樹だった。
けれども弘樹は最近、大学生の彼女ができたらしい。
よくある、子供のように無邪気な彼に、その年上の女性は母性本能でもくすぐられたのだろうか。
終始にやついた彼の顔は僕には新鮮だ。
また、学ぶべきものが増えたのだから。
まぁ、やっぱり僕にはそんな表情を作る機会はありえないのだけれど。