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ネムリヒメ.
第8章 雨.
なんとかあまり濡れずに玄関までたどり着くと、彼がかけてくれたジャケットの水滴を払う
深いムスクのような渚くんの匂いがする…
…ってナニを考えているんだ、アタシは
ひとりで恥ずかしがっていると、お約束のようにザーっという音とともに再び雨脚が強くなった
やばっ…
急いで玄関に逃げ込む
よーし、セーフ♪
ふるふると水滴を払っていると
「お帰りー♪」と、すでに帰ってきていた葵くんが
タオルを持ってリビングから出てきた
「ちーちゃん、そのワンピース…似合ってる♪ 可愛い」
そう言いながら葵くんがジャケットを受け取って、アタシの濡れた服をタオルで拭いてくれる
「ん、ありがとう」
「で、ナギは?」
「あぁっ!! 大変っ」
『良心があるなら傘持ってきて… ケーキ…』
彼のいくつかの言葉が頭を過った
「いけなっ…!!」
忘れてた、とか言ったら絶対怒られる
雨が降ってるから、帰りに買ってもらった近くのパティスリーのケーキと持てる分だけ荷物おろしてって頼んだけれど、
さんざん買い物で振り回した挙げ句、彼をずぶ濡れにするのはさすがに良心が痛む