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ネムリヒメ.
第9章 イチゴ味の夜と….
葵くんにお姫様抱っこのまま庭を抜けて門まで連れて行かれる
貴方は王子様ですか…
絵になりすぎて、心臓がおかしくなりそう
なんか恥ずかしくて、降ろしてもらおうと思ったけど、裸足のアタシには選択権はもちろんない
あの激しかった雨はもう止んでいて、冷たい夜風が火照った顔には気持ちがよかった
「じゃーん♪」
おわっ!!
そう声をあげた葵くんの目線の先には門の前に横付けされた、ピっカピカの真っ赤なオープンタイプのスポーツカー
クロスフラッグのエンブレムが光る彼の車は、もちろん見ただけで高級車ということはすぐにわかる
「ちーちゃん、降ろすよ」
車の上からアタシを助手席に座らせると、葵くんは運転席に乗り込んでエンジンをかけた
グオン…!!と威勢のいい音がして車が振動する
「ホントなら屋根開けときたいけど路面濡れてるから閉めるねー」
慣れた手つきでボタンを操作すると彼はゆっくり車を走らせる
「じゃー出発♪」
雨上がりの星ひとつない重たい夜空の下
凛とした静けさを裂くようにエンジンの音が冷えた空気を震わせる
…ようやく雲間から見えた欠けたおぼろ月は空に滲むように浮かんでいて
その淡い光は、アタシの強がりな嘘を見抜いた葵くんの優しさのようだった
眠る前は渚くんでいっぱいだったアタシなかにあっという間に葵くんという存在が入り込んで、心中を掻き乱す
よくわからない感情で胸が苦しくなって、もう一度空を見上げた
春の空に滲む月は優しく見下ろしてくれているけれど、なんだかアタシには泣いているように見えた…