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ネムリヒメ.
第24章 Get back.
その顔は青白く、胸を押さえた手だけが真っ赤だった
─嘘、だろ…
目の前でガウンの一部を真っ赤に染め、確かめるように赤に染まった自身の手を見つめる郁…
床の上にそれまで離すことなく握られていた黒い鉄の塊が力なくこぼれ落ちる
するとそんな雅の視界を遮るものがあった
黒のシャドーストライプと革靴…
今日何度も見たそれは自分を冷たいプールへと蹴り落とした脚
「渚…さん…」
雅が思わずその名を口にすると、声の主が振り返り視線が落とされた
「っ…!!」
刹那、雅はゾクリと背中に悪寒を走らせる
雅を見下ろした渚の瞳…
…その瞳もまた、それだけで人を刺して殺せるような鋭く冷たい色をしていた
それから渚の足は静かに床を鳴らし、いったんベッドの前で立ち止まる
このときの渚の表情を雅がいる場所からは伺うことはできなかった
しかし、
「なあ…」
やがて膝をつき腰を落として動かない郁の肩に渚の靴底が押し付けられると、静寂のなかにいつになく低い声が響かされる
「自分がなにをしたかわかってるよな…」
その声は荒れた彼の心情を表すもの…
収まりどころを知らない殺気と怒気が入り交じり、どす黒い何かが瞬く間にその場を支配する
「よくこれたね、渚…」
しかし、
そんな渚の姿をよそに、息を荒ららげながらも郁の口調は変わらなかった