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ネムリヒメ.
第25章 Black Emperor.
これは似た者同士の同情なんかじゃない
傷のなめ合いで優しくしたかった訳じゃないんだ
だって、知らず知らずのうちに傷を埋めてくれていたのは、何も知らない、出会って間もない彼女の方だったから
救われてたのは自分の方だったんだ
だから、何にも囚われない本当の笑顔が見たかった…
何にも縛られていない本当の彼女を見たかった
初めは面白半分、渚くんがなぜか毎日離さないコに興味があっただけ
あの渚くんに初対面で平手打ちを喰らわせたワガママな女のコに興味があっただけ
なのに…
いつしか彼女は、こんなにも自分のなかで大きな存在になっていて
それに気が付いたのは、カジノのVIPルームで雅に逆上して取り乱したあとだった
ちーちゃんが泣いてた…
─遅かった。
いつも自分をまっすぐ映してくれていた大きな瞳からサファイアみたいな涙をこぼしてて
…守りたかったなんて言ったら自分が滑稽過ぎて笑えてくる
オレはどうしようもない子どもだった
彼女を笑顔にするどころか、傷つけて泣かせてしまった
─それに郁くんも…
「ッ…」
きつく握りしめていた拳を開くと金の向日葵が床に転がり落ちる
嵌めたつもりだったのに…
聖は向日葵を象った徽章を拾い上げると、テキーラを注いだショットグラスの中へそれを沈めた
すると、懐から取り出した携帯電話のディスプレイから位置情報を示していた赤い点滅がひとつ消失する