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ネムリヒメ.
第25章  Black Emperor.






魔王を前に、目の前のことでいっぱいいっぱい

震える声をあげる彼女の空っぽの頭のなかに、そんな思案があるとはまったく思えなかった


「こんな…なんの価値もない」


─ポチャン…


「……ぇ…!!?」



あ……


何かを疑うような声と小さな水音がしたのはほぼ同じタイミングのことだった

ハッとする若葉ちゃんの目の前で、熱帯魚が優雅な泳ぎを見せる大きな水槽に不自然な波紋が広がる


それもそのはず…











─望が鍵を水槽のなかへ放り投げていた。








「なっ…にしてるのよっ!!」


変顔を強要していた望を突き飛ばし、慌てて水槽に張り付く若葉ちゃん


…にも関わらず、望ときたら


「あー、手が滑ったぁ」


なーんて、とびっきり暢気な声をあげ、水槽を眺めながら悪そうに唇の端を吊り上げている


ゆっくりと沈みゆく鍵…

そこへ寄ってくる水槽の住人


因みに、優雅な泳ぎを見せている熱帯魚とやらの詳細を述べてみれば、色とりどりの南国の海の仲間たち♡ではなく、

その正体は望が日頃から可愛がっているプラチナアロワナだったりする


名前はなんだっけな…

あー、そうだそうだ♪

覚えるにもひと苦労のすご───い長い名前だった気がする

"寿限無"かって、雅がツッコンでたっけ

ピカソのフルネーム並みに長ったらしいのを一回だけ望が呼んでたの聞いたことあるけど、もう覚えてないや

でも、愛称は確か"アーロン"だったはず♪






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