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ネムリヒメ.
第26章 夜明け.
え…
一瞬、怒涛のように押し寄せた切迫感に埃っぽくなったエントランスが、水をうったかのように静まり返った
手当てを終えたばかりの腹部を蹴られ床で踞る雅くんも、
そんな雅くんに弾かれて背中を壁に打ち付けた聖くんも、
アタシを咄嗟に庇った渚くんさえも…
まるで凍りついたかのように誰も動かないし、誰も話さない
全員が息をのんで凍りついた空気が嫌なほどに肌を刺した
そんななか唯一たてられるまだ耳に新しいその音に全身が硬直して身の毛がよだつ
なぜなら、その音の正体と記憶が結び付いて答えを導き出すのは無意識にも容易なことだったからだ
自分にも幾度となく向けられたそのものがもたらす恐怖心はアタシの潜在意識に深く刻まれていて、今にもその恐怖がこの身に鮮明に甦ってくる
頭はまっ白なのに目の前は真っ暗
心臓が早鐘を打ちはじめて、息が苦しくなりかけて芯から震えだすカラダ
「ッ…ぁ…は、ぁ…」
ダメ…向き合うって決めたのに…
抗いたいのに発作的に襲ってくるどうしようもない恐怖心は、視界、思考、呼吸…と予想以上にアタシのありとあらゆるモノを凍結(フリーズ)させていく
すると、
「…お帰り、千隼♪」
その恐怖の根源を誰が握っているかも把握しないうちに、立つのがやっとになってしまったアタシを抱えた渚くんの背中の向こう側からそんな声がかけらる
それは…
────ッ…!!
アタシの抱いた違和感と彼らが向けた警戒と殺気の正体が、葵くんに向けてのものではなかったことが明らかになる瞬間でもある