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ネムリヒメ.
第26章 夜明け.

「………」
「…待ってたよ」
覚えのある甘ったるいハスキーボイスが耳を掠める
「葵と仲良く…ね」
覚えのある大人の色気を纏う甘いフェイスが微笑みかける
忘れようとも忘れられないすべての存在をかき消す印象的な薔薇の香りに、全身を快感にも似た戦慄がゾクリと貫いた
─郁…さん…
胸を襲うのは気持ちが悪くなるくらいの衝動だった
「ッ…ん…」
脳内に著しく呼び起こされ巻き起こる昨夜のフラッシュバックにカラダが否応なしに反応してしまう
説明のつかない感覚によろめいたアタシを支える渚くんの腕…
彼のその腕から伝わってくる体温だけが、今のアタシの唯一の救いだ
それから後方へ振り返った渚くんは葵くんに向かってまざまざと悪態をつく
「どういうことだ、葵」
「ゴメン、ちょっとヘマっちゃって…」
「…あのな」
態勢を崩しながら視界の隅に垣間見えたのは、そう苦笑う葵くんだった
手のひらをプラプラさせながら小さく両手をホールドアップさせている
そしてそんな葵くんの背後には涼しい顔で頬笑む郁さん
彼は葵くんの腰の辺りに握りしめた重たい沈黙を保つ鉄の凶器をグリグリと押し当てていた
…これが違和感の理由だった
アタシたちと対峙しても葵くんが近寄りもせず、不自然な笑顔のまま無言の警鐘を鳴らしたのも、咄嗟に拒絶する勢いで自分から遠ざけようとしたのも…
「おはよう、千隼。きのうはよく眠れた?」
「………」
まっさらなガウンを羽織った郁さんがをあたかも恋人を慈しむような表情で目を細めた
無論言葉など、とっくに喉の奥に張り付いてしまって出てくるはずもないのだが…

