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あい、見えます。
第9章 あい、見えます。
* * *
目が覚めた時、いつもの場所に手を伸ばしてから、遥は壁にぶつかった右手にきょとんとした。
(私……)
少し考えて、思い出した昨夜のことにハッとする。
「おはようございます」
隣に感じる温もりに耳をすまそうとした瞬間、柔らかく聞こえた佐々木の声に、思わず身体が緊張した。
そして気付く。
いつの間にか、Tシャツとジャージを着せられて、まるで何事も無かったかのように寝かされていた自分の姿に。
「おはよう、ございます」
昨夜の記憶は途中から曖昧で、甘く霞んで揺れている。
きっと、佐々木が服を着せてくれたに違いない。
自分が、どんな風に見られていたのかと考えて、また少し恥ずかしくなる。
「身体は、痛くないですか?」
そんな自分に、やはり彼は最初に気遣う言葉をかけてくる。
お腹が少し痛い気がするけれど、耐えられない程じゃない。
小さく頷くと、「良かった」と安堵の息が混じった声が聞こえた。
「最初だったのに、少し無理をさせてしまったんじゃないかと、不安でした」
ベッドが揺れて、左の頬に手の温もりを感じた。
佐々木の掌だ。
そう思った時には、微かに顔を傾けて頬を預けていた。
「貴方はきっと、痛くても我慢してしまうような気がしていたから」
「……佐々木さん」
「だから、まだ無理はしないで下さいね」
優しい言葉に、胸が、また温かくなる。
どうしてだろう。
もう何度も、温かくなっているのに、まだ、胸はぽかぽかする。
無理はしないで、と言われたからだろうか。
そんなことを考えていたら、ふと懐かしい過去を思い出した。
「……っふふ」
「遥さん?」
「今日の佐々木さんは、ホストじゃなくて、お医者さんみたいですね」