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あい、見えます。
第2章 見守って
* * *
国崎と飲む日は2週間後の水曜に決まった。
水曜は佐々木の出勤日だが、次の日(木曜日)はオフだ。
相変わらず、自分の状況に合わせて日程を決めてくる国崎の配慮に気付き、そして感謝しながらも、今、佐々木は当日の話題について、ぼんやり考えていた。
(恋、か…)
ソファに腰掛け、ガラステーブルに置かれたままの、昔の写真を眺める。
恋というものが、あの熱量と欲情で彩られるものなのだとしたら、これは恋愛では無いのかもしれない。
それでも、今朝も、自分の耳は、あの隣人が家を出る音に反応し、自然と瞼が持ち上がった。
玄関まで行って、扉を開き、会話を交わしたいとさえ、思った。
発する言葉さえ見つからないのに、声をかけたいなどという矛盾した感情は、女性からしてみれば、脅威なのかもしれない。
自分は得体の知れない―――、声しか知られていない唯の隣人だ。
だからこそ、目を閉じて、やり過ごした気でいた。
だが―――。
「……まいったな」
時計を見れば、午後2時だ。
彼女の帰宅は、いつも午後5時半過ぎ。
今思えば、それは図書館の閉館時刻に合わせてのことなのだろう。
今日も彼女は、図書館で何か作業をして帰ってくるに違いない。
(……)
少し考えてから、佐々木は立ち上がり、借りっぱなしだった本を手にすると、薄いジャケットを羽織った。
国崎と話をする時のネタにするためだ。
そう自分に言い聞かせながらも、胸には、はっきりとした思いがあった。
彼女が図書館で何をしているか、どうしても知りたくなった。
図書館にいるのだと、知るだけで満足しようと思っていた。
それ以上を知ろうとすることは、それこそストーカーと言われても否定できないと考えていた。
だが、彼女が図書館で何をしているかを知れたら、或いは、この感情に名前をつけられるかもしれない。
夏の暑さが僅かに残る9月の空の下、佐々木は部屋を出ると、足早に市立図書館の建物を目指して歩き出した。