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あい、見えます。
第3章 見つけ出して
(佐々木晋。……え、昭和*年生まれって)
思わず、薫は指を折って年齢を確認した。
自分よりも想像以上に上の数字に目を丸くした時だった。
「すみません」
「へ? あ!」
思わず「ササキシン!」と叫びかけた口を、薫は慌てて抑える。
たった今、40歳だと分かった男が目の前にやってきて、一瞬、パニックになりかけた。
だが、相手は不思議そうに一つ瞬くだけで、手にしていた本を薫へ差し出す。
「返却、お願いします」
「あ、……あぁ。はい」
何か拍子抜けした空気で、その本を受け取り、バーコードを読む。
その目が、本の題名をなぞった。
『沈黙の音』―――。
「はい、大丈夫です」
顔を上げて、ようやく落ち着いてから返却完了の合図に頷いた。
だが、佐々木は少し困った顔をして、その場に立っている。
立ち去る気配が無い。
平日の昼間だ。
図書館は閑散としているし、隣の受付にいる男性職員も、のんびりと配架業務(図書を本棚に戻す作業)のための本を揃えている。
「あの、…どうしました?」
少しくらい話し込んでも問題じゃない。
むしろ、たった今、この男のことを考えていたのだ。
ある種のチャンスだと思った薫は、自分から佐々木に話しかけてみた。