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あい、見えます。
第4章 見落とさないで
「大丈夫なの? 昨日、忙しそうだったけど」
「ん? あぁ、昨日ね。何かたまたまカード忘れた人と、延滞してた本を返しに来た人とって重なって、ちょっと手間がかかってたの。だから、矢崎さんが配架から戻ってきた時に、遥のフォローを、お願いしただけ」
今日は平和、と告げる薫の声は穏やかで、平日の昼間らしい落ち着きがあった。
「だから気にしないで? ほら、お昼食べながらでいいから」
明るい声に促されて、小さく笑った遥が、おにぎりのラップを剥がし始める。
簡単な料理は作れるという遥の膝の上には、今日も、茹でたブロッコリー、プチトマト、アスパラの豚肉巻きが入ったランチボックスが置かれている。
彩りも鮮やかな、そのお弁当は、目が見えない彼女が作ったものには思えない。
(私もコンビニ弁当は卒業しないと)
そんなことを思いながら、薫は密かに深呼吸する。
お願い、とは言ったけれど、遥は積極的なタイプじゃないし、自分が世話やきすぎるだけかもしれない。
何より、今から頼もうとすることを、遥が喜ぶとも思えない。
(嫌われる、かもなー)
吹き抜けから見える薄灰色の空を見上げて苦笑すると、遥に見えないところで百面相をしていた薫は、意を決したように顔を横に向けた。