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あい、見えます。
第4章 見落とさないで
* * *
手帳が拾われた翌日。
薄曇りの水曜日に、昼食を食べようと図書館の吹き抜けに出た遥は、石のベンチに腰掛けると、持ってきたランチボックスを膝の上に置いた。
ウェットティッシュで手を拭いてから、手探りでブロッコリーに爪楊枝を刺して、水筒の蓋をあける。
おにぎりのラップを剥がそうとした時、微かな金属音に動きが止まれば、遥の顔は、自然と音の方向へと引き寄せられた。
「遥」
続いて聞こえた声に、剥がしかけたラップを戻すと、微かに口角を上げる。
「どうしたの、薫」
「うん、……ちょっとさ、遥にお願いがあって」
「お願い?」
声が近づいてくる気配に、横に置いていた水筒の蓋を本体に戻すと、ベンチの端側へどかした。
「ありがと。座るね」
石のベンチは固いせいで、薫が座った揺れや軋みは感じない。
けれど、左の膝の辺りに微かに人の温もりを感じる。
遥は自然と、顔を真横へ向けて瞳を瞬かせた。