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あい、見えます。
第4章 見落とさないで
「まぁ、そんなに悩むような事情があるなら、別に、渡すくらいは構わないけど」
「ごめん、遥…」
「もう、いいって。何かあったの? その佐々木っていう人と。……もしかして、付き合ってる、とか?」
「ち、違うよ! 何言って…!」

慌てた薫の声に、遥が微笑む。

「良かった。じゃ、帰りに手帳渡してくれる? 隣の人に渡しておくし」
「あぁ、うん。これ、ね」
「え」

左手に、薫の指先の温もりを感じた。
目を丸くした時には、既に、その掌に手帳を渡されていた。
そのまま、左手を薫の両手で包み込まれる。

「なんだ…。私に渡させる気、まんまんだったんだ」
「まぁ、ね」
「ねぇ、でも、本当にどうして? 薫がそんなこと頼むってことは、何か理由があるんでしょ?」
「うん」

先程とは違って、どこか心配するような遥の声に、薫が遥の左手を握る指に微かに力を込めた。

「理由はね、昨日のメールに入ってるから」
「入ってる?」
「うん。メール開けば、分かると思う」
「じゃあ、帰ったら読むから、だから、そんなに不安そうな声で喋らないで、薫」
「え、わかる?」
「すっごく漏れてるもん、薫の不安」

優しく笑った遥は、左手に視線を向けてから、微かに眉をハの字にして、それでも薫に頷いてみせる。

「隣の人、良く分からないし、男の人だから、あんまり関わりたくない気持ちもあるんだけどね。薫が私を頼ってくれるのが、ちょっと嬉しい気持ちもあるの」
「遥…」
「大丈夫。最悪、ポストに入れちゃうし。……それに、薫が"知り合い"って言うほどの人なら、そこまで変な人じゃないんでしょ?」
「うん。そう、思うよ」
「じゃあ、滅多に無い親友の頼み、聞かなきゃね」



無人の吹き抜け空間で、

遥の声が、薄暗い空とは対照的に、明るく響いた。


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