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あい、見えます。
第5章 見えなくても



■見えなくても



遥は、紅茶のカップを傾けながら、仕事のチェックを終えた指で、そのままメールソフトを開いた。

あんなにもどかしそうな薫の声は、長い付き合いでも初めて聞く。

一体、何が言いたかったのだろう。



「……んー」



キーボードを操作しながら首を傾げたが、やはり何も思い当たる節が無く、小さく溜息をついた彼女は、受信トレイから昨日の夜のメールを選択した。



『ゴゴ11ジ53フン アオキ カオル ヨリ』



電子音にイヤホンを外し、スピーカーにしてから、テーブルの上に指を滑らせる。
そこには、薫から預かった手帳が置いてある。

おそらく革のカバーで、使い込まれているらしいそれは、手に馴染みやすくて、遥の手にも程よく収まる大きさだ。
左開きにした時、カバーの右下に何か文字が刻まれている。
そのまま開くと、すぐ最初のページに筆跡が感じられるから、横書きの手帳なのだろう。

けれど、何が書いてあるかは、もちろん分からないし、表紙の刻印も指先で分かる文字は一部だけだった。



(なんなんだろう、この手帳…?)



謎めいた預かり物から指を離して、遥はキーボードに指を戻した。



『ホンブン』

『ハルカヘ
 オソクニゴメンネ
 クワシイコトハ アシタハナスカラ ドウシテモ キイテモライタイコトガ アルノ
 オネガイ
 オワリマデ キイテモラエルカナ』

『データファイル アリ』



(データファイル…)



細い指がEnterキーを叩くと、数秒の後に、メールに添付された音声データが自動再生され始めた。


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