この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
あい、見えます。
第5章 見えなくても
■見えなくても
遥は、紅茶のカップを傾けながら、仕事のチェックを終えた指で、そのままメールソフトを開いた。
あんなにもどかしそうな薫の声は、長い付き合いでも初めて聞く。
一体、何が言いたかったのだろう。
「……んー」
キーボードを操作しながら首を傾げたが、やはり何も思い当たる節が無く、小さく溜息をついた彼女は、受信トレイから昨日の夜のメールを選択した。
『ゴゴ11ジ53フン アオキ カオル ヨリ』
電子音にイヤホンを外し、スピーカーにしてから、テーブルの上に指を滑らせる。
そこには、薫から預かった手帳が置いてある。
おそらく革のカバーで、使い込まれているらしいそれは、手に馴染みやすくて、遥の手にも程よく収まる大きさだ。
左開きにした時、カバーの右下に何か文字が刻まれている。
そのまま開くと、すぐ最初のページに筆跡が感じられるから、横書きの手帳なのだろう。
けれど、何が書いてあるかは、もちろん分からないし、表紙の刻印も指先で分かる文字は一部だけだった。
(なんなんだろう、この手帳…?)
謎めいた預かり物から指を離して、遥はキーボードに指を戻した。
『ホンブン』
『ハルカヘ
オソクニゴメンネ
クワシイコトハ アシタハナスカラ ドウシテモ キイテモライタイコトガ アルノ
オネガイ
オワリマデ キイテモラエルカナ』
『データファイル アリ』
(データファイル…)
細い指がEnterキーを叩くと、数秒の後に、メールに添付された音声データが自動再生され始めた。