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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
     *

 男の色気っていうのを貴博さんは私に教えてくれた。
 さらさらの前髪が邪魔になるようで何度もかき上げるけれど、固めてないから落ちてくる。長くてしなやかな指が髪をかき上げる度、にじみ出る色っぽさにどきりと心臓が跳ねた。
 思い通りにならない髪の毛に苛立っているのが分かったから思わず笑うと、恨めしそうな視線を向けられた。
「真白の顔がよく見えない」
「私は貴博さんの顔がよく見えますよ?」
 手を伸ばしておでこに掛かっている前髪を上げると、切れ長の瞳がよく見えて、固まった。
 流し目っていうの、こういうの? 眇めるようにして瞳の端っこから貴博さんは私を見ていて、その誘うような目つきがこれまた色っぽすぎて、心臓が壊れそうなくらいどきどきしていた。
 そういえば貴博さん、食事会の時にもたまにこんな視線を私に向けていたような気がする。こんなに色気だだ漏れな視線を私に向けていたの? それに気がつかない私ってどれだけ鈍いの?
「真白がピンクに染まってる」
「だ……って! 貴博さんの視線がすごい色っぽくて!」
「色っぽいかどうかは分からないけど、真白のことをどうやって誘惑しようかっていつも考えてる」
 貴博さんのこんな色っぽい視線、他のだれにも見せられない。だって、こんなに色気を振りまいてるのよ? それでなくても人気があるのに、これ以上、ライバルが増えたら私の気が休まらない。
「ゆっ、誘惑するのは私だけにしてください!」
 そうお願いを口にしたら、貴博さんは首を傾げて私を見下ろした。
「真白しか誘惑してないけど?」
 そんなことないと首を振ると、さらに首を傾げられた。
「貴博さんはっ」
 自分が今、どれだけ色っぽいのか分かってないから言えるんだ。
 そう口にしようとしたのに、唇を塞がれた。執拗に舌を絡められ、息も絶え絶えになった頃、ようやく少しだけ離された。貴博さんは唇をひっつけたまま、口を開いた。唇が軽く当たって、その感触が気持ちがいい。
「俺が欲しいのは、真白だけだよ」
 貴博さんは私の顔の横に肘をつき、じっと瞳をのぞき込んできた。
「真白だって、今、どれだけ俺を誘惑しているのか知らないからそんなことを言えるんだ」
「誘惑なんてしてませんっ!」
「俺はずっとしているよ? 真白はぜんぜん気がついてくれないから、ほんと困った」
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