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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
     *

 貴博さんの過保護ぶりを上回っていたのは、貴博さんの両親だった。ことあるごとにお菓子の手みやげを持ってうちに来て、ご飯を作ってくれた。
 貴博さんは貴博さんで、わたしのつわりがあまりにもひどいからすぐに診断書も作ってくれて、しばらく仕事を休むことになった。
 私としてはそんな大げさなと思ったけれど、無理が祟ってもしもは嫌だから、大人しくしたがった。

 ぼんやりとベッドに寝転がっていると、色んなことを思い出してくる。
 端から見たら流されて結婚したように見えるかもしれないけれど、貴博さんに好きと言ってもらってプロポーズされるのは心のどこかで願っていた。だからこれで良かったと私は思う。
 そう思ったら、貴博さんに大好きだって一刻も早く伝えたくなった。早く帰って来ないかなとそわそわしてしまう。
 そんなことを考えていたら、気がついたら眠ってしまっていたようだ。
「真白、ただいま」
「ん……貴博さん。お帰りなさい、──月が綺麗ですね」
 寝ぼけていたのもあったけれど、眠る前に伝えたいと思っていたからか、自然に口から大好きとこぼれていた。言ってからとても恥ずかしくて、耳まで真っ赤になったのが分かった。
 貴博さんはちょっと泣きそうな表情をしてぎゅっと抱きしめた後、幸せそうな笑みを浮かべて唇を重ねてきた。
「真白、今のそれ、反則。すごい誘惑だった」
「私も貴博さんに負けないようにたくさん誘惑をしますね」
「充分、誘惑されまくっているよ」
 そう言って私たちはくすくすと笑い合った。

【おわり】
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