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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
 驚きのあまり、私の口からそんな言葉が洩れていた。
 さゆみちゃんから報告を受けたのは、彼氏ができたってことで……。ええと?
 そういえば、相手がだれかって聞かなかったけれど、いや、まさかの中本課長とは。
 ああ、それで中本課長がやたらに私を食事に誘っていたのか。もしかして中本課長から私に報告をするつもりだったの? 苦手という意識が強くて、断りまくっていたもんなぁ。
 さゆみちゃんも水くさいなあ。言ってくれればいいのに。
 あー……。
 そういえば私、さゆみちゃんに中本課長が苦手だっていう話をした覚えが……。だからもしかして、さゆみちゃん、相手がだれかって言わなかったの?
「ようやく結婚できました」
 へらっと緩んだ表情で報告する中本課長に、知らなかった事実に唖然とした。
 いやまあ、社内恋愛だから秘密にしてたってのは分かるけど。
 もしかしなくても、貴博さんは知っていたのかなあ。
 今すぐにでも確認したい気持ちだったけれど、そこはぐっと我慢した。
「以上で今日の朝礼は終わる。それでは、それぞれ業務に戻るように」
 和田部長の一言で業務が開始となったけれど、なんというか、私はあまりの出来事にショックで呆然としていた。
 中本課長におめでとうやら言っている人たちを視界の端に捉えつつ、このもやもやをどう思えばいいのか分からずにいた。
 中本課長って四十歳過ぎていたと思うのよね。
 さゆみちゃんは私と同じ歳だから、一回り以上の年齢差ということになる。
 歳の差も驚きだけど、中本課長とさゆみちゃんという組み合わせが意外すぎて言葉もない。
「和田部長、産業医の月野木さんから内線ですー」
 月野木という名前にどきりとした。
 和田部長の声に思わず耳をそばだててしまう。
「今からでも構わないよ。……ああ、分かった。そちらにうかがおう」
 貴博さんが和田部長になんと言ったのか分からないけれど、和田部長は電話を切ると、席を外す旨を周りの人に伝えているのが聞こえた。
 それから私は和田部長が席に戻ってくるまで、そわそわして仕事が手につかなかった。
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