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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
貴博さんの朝からの誘惑をどうにかかわして、私たちは無事に職場についた。
ちなみに一緒に部屋から出て、同じ電車に乗ったけれど、元々が利用駅が一緒だったし、同じ会社の人に会ってもそう言える。
とにかく今は和田部長と相談して、どうするかということを決めるまでは下手に公表しない方がいいだろうというのが私たちの見解だった。
貴博さんから和田部長に内線をかけるという話は昨日の夜に打ち合わせをしていたため、それはお願いするとして。
仕事が終わったら貴博さんの部屋に帰るようにと別れ際にそっと囁かれた。反論しようにもすでに貴博さんは遠くに行っていて、計算して囁いたのが分かって思わず口を尖らせていた。
ちょっと不満に思いつつ貴博さんと別れて自席に着いて思ったのは。
──そっか、私、貴博さんと結婚したんだよね。
だった。
まだ『月野木真白』になったという実感がないんだけど、婚姻届を出したから、私は貴博さんと結婚をしたことになる。慣れるまで戸惑いそうだなと思いつつ、私は仕事の準備を始めた。
毎日、九時になると朝礼が始まるのだけど、今日、出勤予定の和田部長と中本課長の姿が九時になっても見当たらない。
先ほど、和田部長はちらりと見たから出勤してきているはずなんだけど、どうしたんだろう。
そんなことを思っていると、和田部長と中本課長が二人してフロアに戻ってきた。
「ああ、遅くなってすまなかった。朝礼を始めようか」
和田部長のその一言にみんなが椅子から立ち上がり、朝礼が始まった。
いつものように淡々と業務連絡があった後、和田部長は咳払いをした。
「ひとつ、喜ばしい話がある」
和田部長の言葉に、何事かと周りがざわめいた。なんだろうと思っていると、和田部長は中本課長を手招きした。中本課長は心なしか誇らしげに和田部長の横に立った。
「中本くんがこの度、結婚した」
その一言に周りがさらにざわざわとした。
中本課長がまだ独身だというのは知っていたけれど、結婚するのかあ。
……ということは、私と貴博さんが結婚したということを公表するのはいいチャンスかもしれない。
なんて呑気なことを考えていられるのもここまでだった。
「相手は知っている人もいると思うが、森山さゆみさんだ」
その一言に私の思考が停止した。
え……? さゆみちゃんとなの?
え、え。
「ええっ」