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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
     *

 貴博さんにさんざん笑われて、それでむすっとしていると抱き寄せられた。
「笑ってごめん」
 と謝りつつ、貴博さんはまだ笑っていた。
 もー、面白くともなんともないですって。
「でも、むすっとしてたり、雰囲気が悪いよりはいいよな?」
「そうですけど」
「それなら、お詫びのキス」
「それってお詫びってよりは自分がしたいだけでしょう?」
「そうだけど?」
 それではお詫びにならないじゃないのと反論しようとしたけれど、口を塞がれてしまったせいで言葉にならなかった。とはいえ、柔らかく唇を重ねるだけのキスだったから言い返せたけれど、貴博さんとのキスが嫌だったわけではなかったのでそのまま受け入れた。
 貴博さんは甘えるように唇をついばんできた。舌を絡めるディープキスもしてくるけれど、どちらかというと軽いキスが好きなようだ。
 何度も唇を重ねては離すという行為を繰り返しているうちに、物足りなくなった私がじれて口を開いた。だけどちろちろと舐められるだけでそれ以上はない。
 貴博さんに身体をすり寄せ、抱きつくとやっぱり笑われた。
「これ以上のことをやっても大丈夫?」
「これ以上って?」
「キス以上のこと」
「うー」
 どうしてそういう恥ずかしいことを聞いてくるのよ。やりたいのならやっちゃえばいいのに。
 ……なんてことを心の中で思ってしまったけれど、そう言えるかというと、言えない。
「……恥ずかしいこと、聞かないでください」
「恥ずかしくないよ。愛を確かめ合う行為と言えばいいか?」
 たまにこうやって貴博さんは意地悪な言い方で聞いてくる。どう反応すればいいのか分からないし、しかもすっごく恥ずかしい。
「貴博さんの言葉のセンスって独特で面白いです」
 返す言葉を思いつかなくて思ったことを口にすると、抱きしめてきた。
「真白の興味を引こうと思って必死なんだよ」
 興味を引こうとしているの?
「……どうしてですか?」
 そんな必要がどうしてあるのか分からなくて聞くと、照れを含んだ笑い声がした。
「真白にもっと好きになって欲しいから」
「もっとって……。貴博さんだから結婚をしていいと思ったのに、まだ足りないですか?」
「足りない。俺はとても欲張りなんだ。俺は真白が一番大切だけど、真白も同じくらい一番だって思って欲しいなんて、贅沢か?」
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