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テンプテーション【完結】
第1章 告白から始まる恋?
 月野木貴博(つきのき たかひろ)との月に一度の食事会は、仕事一筋の私にとって、ほぼ唯一と言っていいほどの楽しみになっていた。
 店のセッティングは、私であったり月野木さんであったりと、なんとなく分担してきていた。
 食事会の最後にはどちらが店を選ぶかと、大体の日程を決めてから解散するのが暗黙の了解だった。そして今回は月野木さんの番だった。
 月野木さんが前々から行きたいといってようやく予約が取れた店なのに、「なる早で!」と課長に急に差し込まれた仕事のせいで待ち合わせに遅れることは決定事項となった。
 その仕事は朝一番に言われたので、お昼休憩の時に遅れるというメッセージは送信済みだし、月野木さんからは店に入って待ってるから慌てなくていいと返信が来ていたけれど、作業を進めていくうちに暗澹とした気持ちになってきた。あまりの多さに行けるのか怪しくなってきたのだ。
 課長への恨み言を胸に秘めつつ、私は脇目も振らずに取り組んだ。そのおかげで待ち合わせ時間の三十分後には書類作りが終了した。課長チェックも済んで問題なしとなったので、私は急いで帰り支度をした。
 月野木さんを待たせてしまったけれど、思ったより早く終えることができてよかった。
 これが就業後に予定が入ってないときならよかったんだけど、どうしてよりによって今日なのよ。
 とまたもや恨み言が意識にのぼってきたけれど、とりあえず終わったのだからもう忘れてしまおう。せっかくこれから楽しいことが待ってるんだから、いつまでも負の感情に引きずられていたらつまらない。
 なので気を取り直すために会社を出る前に化粧直しをして、今から向かうというメッセージはしておいた。
 月野木さんからは《月が綺麗ですね》という優雅なメッセージが返ってきて、ちょっとほっこりした。
 月の名前を持ってる人が月を眺めて綺麗だなんて、ちょっとおかしい。
 ささくれた心が癒されたところで月野木さんが待つお店へと向かった。
 場所は以前に月野木さんに教えてもらっていたからだいたいのめどはついていたけれど、正確な場所が分からないから、案の定、店にはたどり着けていない。
 迷子になってしまったらますます月野木さんを待たせてしまうからと道の端に寄ってメッセージをしようとバッグの中からスマホを取り出そうとしたところ、目の前から見知った人が歩いてくるのが分かった。
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