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忘れられる、キスを
第2章 泣き顔
「泣いてないよ」

そう言って、笑おうとした先輩の目からぽろりと大粒の涙が落ちた。
ぽろぽろと、ガラス玉みたいな綺麗な涙が次々と落ちてくる。

思わず、抱きしめた。

一瞬、先輩の肩がびくりと震えた。
けれども、涙は止まらなくて、頭を撫でると、嗚咽が漏れた。

先輩の鼻先が、俺の心臓の辺りに押し付けられている。

うるさいくらいにドキドキしてるの、ばれるかな。

そんなことを思ったが、先輩はそれに気付きようもないほどにしゃくりあげていた。

俺はただ、その震える肩を抱きしめ、小さな子をあやすように、頭を撫でることしかできなかった。

どれくらい時間がたったのだろう。
ようやく少し落ち着いたようだ。
しゃくりあげる声が小さくなった。
それでも、まだ顔をあげず、俺の心臓近くに鼻先を押し付けている。

「えっちゃん先輩…?」

声をかけると、鼻をすすりながら、顔をあげた。
涙は止まっているが、目が少し腫れぼったい。

「少しは落ち着いた?」
「ん、ごめん…」

小さな声で言って、それからふいっと俺から離れる。
目尻をこすり、鼻をすする先輩が愛おしくて、離したくなくて、もう1度左手を握った。

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