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忘れられる、キスを
第15章 観覧車
生まれて初めて乗る観覧車は思っていたよりずっと速いスピードで動き、思っていたよりも高所まで連れて行かれることに驚いた。

「下からみてるとすごくゆっくり動いているようにみえるのにね」
「怖い?」

星くんがからかうように言う。
平気、と笑って見せたが、窓の外を覗き込むほどの勇気はなく、青く晴れた春の空を眺めていた。

「就活、してるんだっけ?」
「そうっすよーそろそろ追い込み」

それまであまり気にしていなかったけど、星くんの髪は明るめの茶色から一転、黒檀のような黒になっていた。
バレンタインの日よりも少し落ち着いて、大人びて見える。

「黒、似合うね」

何の気なしに言うと、星くんが少し照れたように笑った。
はにかんだ笑顔は少年のようだ。

「今日は何もないですけど、また来週から面接ばんばん入って辛いです…」
「就職決まったらお祝いにおいしいもの食べに行こう?」

はあ、とため息をついた顔がぱっと明るくなる。

「本当に?俺、めっちゃ頑張ります!!」
「応援してるね」

いいとこ、就職決めますよ!と星くんは自信たっぷりに言った。
いいなあ、自分に自信あって。

「絶対ですよ!約束!」
「うん、約束」

すっと鼻先に出された小指に自分の小指を絡める。
星くんは嬉しそうに「ゆーびきーりげーんまーん」と繋げた手をぶんぶん振った。

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