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忘れられる、キスを
第15章 観覧車
「あー楽しかった」

名残惜しくなりながらも遊園地を後にして、星くんがぐうっと伸びをする。
空はすっかり群青色だ。

「少しは、気が晴れました?」

覗き込まれて、はっとする。

そうだ、私、倉田先輩に振られて、散々泣いて…
落ち込んでた私を元気づけようとして、星くんはここに連れてきてくれたんだよね。

朝方の沈んだ気分はどこへやら。
一日中歩き回ってくたくただったが、心は不思議と充足感に満ちていた。
私は本当に単純な人間なのかもしれない。

「もう、大丈夫。今日は、本当にありがとう」

精一杯の笑顔で答える。
目が合うと、星くんが、ふいっと視線を外した。

「なら…いいけど。もう、泣かないでね」
「ん、大丈夫」

たぶん、ね。
心の整理は、もう少しかかりそうだけど。

「じゃあ、お礼に、キスして」

星くんが、ここ、と自分の頬を指さす。

「なっ…散々、キ、キスしてた…でしょ…!」
「ちぇーけちんぼー」

不満げに口を尖らせる姿が子どものようで、私は思わず笑ってしまった。

「えっちゃん先輩」

急に真面目な顔つきになって私を呼ぶ。

「俺、就活頑張るから…全部終わったら、また連絡するから…それまで、待っててくれる?」

さっきまでの余裕をかましたいたずらっぽい笑顔とは全然違う、少し不安そうな顔。
いいよ、待つのは得意だし、と笑うと、星くんは切なげな表情で、ごめん、とつぶやいた。





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