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忘れられる、キスを
第21章 ためらい
会社の最寄りから三駅乗ると、星くんの働くカフェ『スターライト』の最寄り駅に着く。
教えてもらったとおり、駅から数分歩いたところで、小さなお店が見えた。
蔦の絡まる壁に『cafe Star Light』の看板が見える。
お店の扉のガラス越しに中を覗いてみたが、星くんらしき人はいなかった。
少し緊張しながら、小さな戸を開ける。
カラン、と扉の上についたベルが私の来店を知らせた。

「いらっしゃいませ」

カウンターの中にいる中年の男性が顔をあげた。
星くんはいないかと、辺りを見回す。
店内では数組の客が食事をしていた。

「お待ち合わせですか」
「い、いえ…」
「お一人でしたら、カウンターへどうぞ」

男性は自分の前の席を手で示した。
カウンターに座ると、お冷とお手拭きが出される。

「ご注文は、いかがしますか」
「あの…星、龍太郎という人が働いていると思うんですが…」

星くんの名前が出た途端、男性は私のことをまじまじと見つめた。

「リュウの、知り合い?」
「え、あ、はい…」

頷くと、何やら合点のいった顔で、君のことだったのか、と呟くように言った。

「もうちょっと待ってて。皿洗い中だから」

その人はぎゅっと片目をつぶるように、不器用なウインクをした。

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