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忘れられる、キスを
第3章 強がり
星くんの前で突然号泣して、それから抱きしめられて、泣いて、そして今、星くんの家にいる。

3つも年上の女が突然泣き出すなんて、星くんびっくりしただろうな…

キッチンでごそごそやっている後姿をぼんやり眺めながら思う。

「えっちゃん先輩、コーヒーでいい?」

ふわりと湯気のたつマグカップを2つ持って、星くんが戻ってきた。

「ん、ありがと…」
「どういたしまして」

私の中途半端なお礼にもきちんとこたえる。
突然泣いてしまったこととか、シャツに鼻水つけたかもしれないこととか謝らなきゃいけないこともたくさんあるのに、上手く言葉が出てこない。

「先輩、これ、チョコ?食べていい?」

星くんが、貰い手のなくなったチョコの包みを目ざとく見つける。

「ん…いいよ。星くんにあげる」
「いいの?好きな人にあげるんじゃないの?」
「いいの。あげる」

ドタキャンされたから…とはいえず、けれども自分で食べる惨めさからは逃れたくて、星くんに押し付けてしまった。
そんなこととは知らない星くんは、にこにこしながら箱を開けている。

「これ、有名なとこのやつですよねー!ラッキー!」

無邪気な笑顔に少し心が慰められるような気がした。

「先輩にも、ひとつ、どうぞ」

星くんが私の手を取って、その上に一粒のチョコを載せる。
赤い、ハート形のチョコ。

「俺からの、気持ち、ね」

ぶっきらぼうにそう言って、他のチョコを頬張る。

星くんからの、気持ち。
泣いてたの、心配してくれてる?

少し嬉しくなって、手のひらのチョコをそっと口に入れた。
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