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忘れられる、キスを
第3章 強がり
「ねえ、えっちゃん先輩。何で泣いてたか、話してくれない?」

星くんが下から覗き込むようにきいてくる。

この子のすごい所は、こうやって人の心の弱い所や柔らかい所にためらわずにすっと入ってくる所だ。
ちょっと遠慮がなさすぎて、危うい気もするけど、そこは星くんの天性の性格によるものなのか、嫌な感じは微塵もしない。

でも。

どうしても、上手く話せない。
倉田先輩のこと。

私が俯くと、

「無理には、いいよ」

星くんが笑って言った。
そしてまた、廊下の方へと行ってしまう。

星くんの淹れてくれたコーヒーが冷めないうちに、ひとくち、口をつける。

そうしているうちに、星くんがぱたぱたとせわしなく戻ってきた。

「もうすぐお湯たまるから、そしたらお風呂入っていいよ」
「お、お風呂…?」
「その顔じゃ帰せないし…」

確かに、すごい泣いたから、メイクは落ちてるだろうし、目の周りとか腫れぼったくなってると思う。
けど、それでお風呂って、ちょっと…

「そのまま帰ったら、また1人で泣くでしょ」

星くんが真剣な顔で言う。

「さっきもいったけど、お願いだから、1人で泣かないで」

すっと間合いを詰められ、ぎゅうっと抱きしめられる。
びっくりして、身体が硬くなる。
抵抗、できない。

けれども、星くんはすぐに私を解放すると、そのまま脱衣所へと連れて行った。

「バスタオルこれ使って下さい。覗かないので!ごゆっくりー」

そういうとパタンと扉を閉めてしまった。
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