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忘れられる、キスを
第24章 泊まり
えっちゃん先輩に追い立てられるように風呂場へ入ると、温かなお湯の匂いに混じって、えっちゃん先輩の使うシャンプーの残り香がふわりと漂っていた。
ささっと頭と身体を洗い、湯船に浸かる。
壁の向こうから、ドライヤーの音が微かに聞こえる。

何を話していたんだろう。

湯船の淵に顎を乗せ、ぼんやりと、『スターライト』でのえっちゃん先輩と伊東さんの姿を思い返す。
演奏中、目の端に捉えた二人は楽しそうに会話していた。
普段は自分のファンの女の子が来ても、特別扱いするようなことをしない伊東さんが、えっちゃん先輩にはカクテルを振舞っていた。
先輩も、ちょっと頬を染めて…

「ガキかよ…」

思わずひとりごちる。
柄にもなく、嫉妬して、道端でキスをしてしまった。

ようやく、こっちを見てくれたと思ったのに。

他の男と話しているのをみるだけで、不安になる。
そしてそういう時は、大抵、倉田先輩との最後のキスも思い出してしまう。

全部忘れて、俺だけを見て欲しい。
俺は、先輩だけを見てるのに。

お互いの気持ちの度合いが違うのは百も承知だ。
それでもいい、これから足して行けばいい、と思っている。
けれど、時々、不安になる。
だから、キスをして、触れて、確かめてしまうのだ。

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