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忘れられる、キスを
第1章 バレンタインデー
2月14日。

世間では、言わずと知れたバレンタインデー。
女の子が好きな人に、好き、と言える絶好のチャンス。
製菓業界の仕掛けた罠だってことは百も承知。
それでも、私、深町絵津子(ふかまち えつこ)も例に漏れず、何日も前からあーでもないこうでもないとチョコを選び、小さな紙袋を抱えて朝からそわそわしていた。


なのに。


『ごめん、急用で会えなくなった』


素っ気ないメールだけを寄越して、ドタキャンされた。

彼が忙しい人だとは分かっているつもりだ。
仕事を理由に会えないことで、文句なんて言うつもりもない。
第一、彼とは恋人でもなんでもない。
ただの、先輩と後輩。

私が一方的に、彼のことを好きなだけ。
いわゆる、片想い、というやつ。

けれど、度々会っては食事をして、先輩後輩の関係というわりには他の人たちより、親密だったんじゃないかな、って思っていた。

だからこそ、勇気を出して連絡したのに。

『2月14日、会えませんか?5分だけでも』

そんなメールに二つ返事でこたえてくれたのに。

このチョコ、どうすればいいのよ。



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