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忘れられる、キスを
第1章 バレンタインデー
ドタキャンしてきた彼、倉田崇(くらた たかし)とは大学時代のピアノサークルの先輩後輩だった。
小学生の時からなんとなく続けて来たピアノを大学に入ってまでやるとは思ってもみなかった。
けれど、入学式の日。
見学がてら構内を歩いていると、どこからか柔らかなピアノの音色がきこえてきた。
音を頼りに辿り着いたのは、サークル棟の最上階。
開けた踊り場に鎮座する1台のグランドピアノ。
窓から射し込む光の中で、甘く、切ない音を響かせていたのが倉田先輩だった。
こんな、素敵な音を出す人、いるんだ。
先輩の演奏に私はその場で釘付けになったように動けなくなってしまった。
優しく、柔らかく、切なげな音が細長い指先から紡ぎ出される。さらさらとした短い髪が、太陽の光で茶色く透けてみえた。
心臓の音が、うるさい。
不意に演奏が止まる。
「あれ、新入生?見学?」
突然、声をかけられ、しどろもどろになってしまう。
ピアノの影から顔をあげた先輩が、優しく微笑む。
「よかったー。人来てくれて。ここで弾いた甲斐があったよ」
先輩はふわりとした笑顔をみせた。
「ちょうど他のメンバーも集まってるんだ。見学だけでも、どうぞ」
そう言って、サークル棟の一室に案内してくれた。
そして、気付けば入会届にサインをしていたのだった。
小学生の時からなんとなく続けて来たピアノを大学に入ってまでやるとは思ってもみなかった。
けれど、入学式の日。
見学がてら構内を歩いていると、どこからか柔らかなピアノの音色がきこえてきた。
音を頼りに辿り着いたのは、サークル棟の最上階。
開けた踊り場に鎮座する1台のグランドピアノ。
窓から射し込む光の中で、甘く、切ない音を響かせていたのが倉田先輩だった。
こんな、素敵な音を出す人、いるんだ。
先輩の演奏に私はその場で釘付けになったように動けなくなってしまった。
優しく、柔らかく、切なげな音が細長い指先から紡ぎ出される。さらさらとした短い髪が、太陽の光で茶色く透けてみえた。
心臓の音が、うるさい。
不意に演奏が止まる。
「あれ、新入生?見学?」
突然、声をかけられ、しどろもどろになってしまう。
ピアノの影から顔をあげた先輩が、優しく微笑む。
「よかったー。人来てくれて。ここで弾いた甲斐があったよ」
先輩はふわりとした笑顔をみせた。
「ちょうど他のメンバーも集まってるんだ。見学だけでも、どうぞ」
そう言って、サークル棟の一室に案内してくれた。
そして、気付けば入会届にサインをしていたのだった。