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忘れられる、キスを
第27章 不穏
給湯室から戻ると外出しようとする早坂さんとすれ違った。

「これから外出て、そこから直帰するから。深町も、金曜だし、早く帰れよ」

ぽん、と肩を叩かれる。
はい、と返事をすると、早坂さんは柔らかな笑みを見せた。

早坂さんと佐野さんは同期だ。
営業成績もお互いに引けを取らない。
それなのに、何で、佐野さんを、怖い、と思ってしまうのだろう。

佐野さんとの約束に心は落ち着かなかったが、何とか仕事をこなし、気付けば壁の時計は六時を過ぎていた。
「こんな時間…!」と慌てた様子で隣の席の鈴木さんが帰っていく。
事務所内にはまだ残る人もいたが、大半が帰り支度をしていた。

「深町、どうだ?」

佐野さんが仕事の進捗具合を確認するかのように声をかけてくる。

「大体終わったな。今日はもういいぞ」

そう言った後、耳元で低く付け足した。

「下で、待ってるからな」

ぎくりとして、鼓動が早くなる。
佐野さんは「それじゃあ、お疲れ」と事務所内に声をかけて出て行ってしまった。

気が重くなったが、パソコンの電源を落とし、私も帰宅の準備をする。
会社のビルの外に出ると、すっと佐野さんが近付き、私の肩を抱いた。

「美味い焼き鳥屋があるんだよ。そこでいいか?」

私の返事を聞かないうちに、佐野さんはずんずん進み出した。
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