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忘れられる、キスを
第27章 不穏
翌日からもそんな微妙な接触は続いていた。
肩や腕に触られ、身体や顔を必要以上に近付けてくる。
大っぴらに騒ぎ立てられるほどではない、微妙な行為。

そして、そんなときは、決まって、早坂さんや他の人がいないのだ。
私が逃げ出せない瞬間を確実に狙ってくる陰湿さがあった。

「深町、今夜、空いているか」

そんな風に声をかけられたのは金曜の午後のことだ。
給湯室で来客用の茶器を片付けている所へ佐野さんがやって来たのだ。

「あ、えっと、今日は…」

星くんがバイト後にうちに来ることになっていた。
口ごもる私に、佐野さんが近付く。

「お前が担当してくれるようになってから四ヶ月目だが、仕事が捗るからな。一度お礼と親睦も兼ねて…と思ってな」
「鈴木さんも一緒でしょうか…?」

三月に前任者が辞めてからは私と鈴木さんという事務の女性で佐野さんを担当することになっていた。
鈴木さんは主婦で、どんなに忙しくても六時には帰ってしまう。

「彼女は今回不参加だ。家のこともあるし、無理強いは出来ない」

佐野さんの笑顔が怖い。
笑ってはいるけれど、その目の奥がじっと私のことを見ている。

ここで断っても、また、何度もこうやって誘われるだろう。
それなら、一度だけ行けば…

「あまり遅くならなければ…」

そう言って、渋々了承してしまった。

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